今さら聞けない“社会関係資本”の話

どもども。青木です。

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さてさて、思えばこれまでさらっとしかしてこなかった、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)について書こうと思います。 

コミュニティ、コミュニティと言っているのですが、
より上位概念の社会関係資本という言葉があります。

教科書的な位置づけとしては“コミュニティ形成の結果、社会関係資本が蓄積される”という表現になるのですが、この社会関係資本というものがなんなのかを解説していきます。

 

先日東京大学FoundXの馬田隆明さんによってまとめられた、『コミュニティマネジメントとは何か、なぜ今重要か/これから始めるコミュニティマネジメント入門』。こちらがRTで回ってきました。多くの方々がRTしており、コミュニティマネジメントの認知の広がりを感じます。

こちらは上述のスライドです。めっちゃ量多いですが読むべし。
https://www.slideshare.net/takaumada/startup-community-management-1

 

さて、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)が最近アカデミックの世界でも注目されているような気配はありました。東北大学図書館に置いてある社会関係資本の本達も、なんか新しいものが多く、被引用文献もここ1~3年までの論文が出てきてます。論文数をグラフにするとかはしてないので厳密にはわからんのですが。

今回は社会関係資本ソーシャル・キャピタル自体が

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)という言葉
・最近研究が盛り上がってきていている理由
・もう無視できないビジネス上のコミュニティ形成

をご紹介します。

なお、本記事の参考文献は『ソーシャル・キャピタルと経済 効率性と「きずな」の接点を探る』です。

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の定義

まず基本的な定義を述べますと、
人々が持つ信頼関係や人間関係(社会的ネットワーク)を指します。

 社会関係資本が豊かである、ことは人間関係の豊かさを示すものです。…わかったようなわからないようなですね。

 

ですが普段から皆さんは社会関係資本に触れながら生活しています。

たまたま居合わせた人と友達になって遊んだりビジネスに繋がったりする“縁”
それを持っていない人よりも有利に物事が進む“コネ”

 

そういったものを“社会関係資本”と呼びます。

 

社会関係資本が蓄積されると
本来必要な手順をぶっ飛ばして資源へのアクセスが可能になります。

取引先の紹介、恩義によって無理を聞いてあげる・もらうこと、そして本来ならアクセス不可能な人にアクセス可能になる、といったものです。

 

社会関係資本の蓄積方法としてはざっくり言えば信頼関係を築くことです。 

義理人情とか、情けは人の為ならず、みたいな言葉がフィットすると思います。


さてこの社会関係資本実はけっこうな問題児で、経済学的にはこの、社会関係資本ソーシャル・キャピタルという言葉自体にまず抵抗感があるようです。
それには次の理由があります。

 

資本:
 ・投資によって意図的に蓄積するもの。
 ・使ったら減る。


ソーシャル・キャピタル

 ・地縁や伝統に基づくもの。
 ・信頼関係のようになにかのきっかけで急速に劣化することがある一方で、
  使うことでより強固になるなど必ずしも使い減りしない
 
・近隣からの強すぎる監視など負の側面を伴うこともある

ということで、90年代以前の経済学者達は「そもそも資本(キャピタル)と呼べるのか?」となっているとのことです。


とはいえ少しずつですが経済学として地位を向上させてきています。

経済における社会関係資本の重要性を無視できなくなってきた。

よく「発展途上国に先進国の機械を持ち込んでもあまり使ってもらえない」という話があります。その原因をソーシャル・キャピタルに見出したのが世界銀行でした。長年の支援から“資本や技術を託された個人の能力よりも個人間の相互の信頼・協力関係に原因がある”との問題意識が蓄積されていました。
要は“魚の釣り方を教えてあげる”でも効果が出なかった理由を、魚を釣るという行為がそのコミュニティでどんな意味を持つかまで考えられていなかったということです。

“私の生活は充実したものだった。
 ある日知らない人が来て「あなた達は貧困だ」と言った。
 私達の貧困はその日から始まった。”

という途上国支援についてのコメントがありました。
技術支援のやり方だけではない、相手が世界をどう捉えているかを理解しなければなりませんでした。

そこで世界中の超一流の経済学者を集めて研究会を開催したところソーシャル・キャピタルが経済活動に重要な影響を与えるものとして認められました。(Dasgupta & Serageldin 2000)

 

また、社会関係資本を計測する試みも行われており、世界銀行のスティーブン・ナック、フィリップ・キーファーによって信頼関係に関する質問への回答を用いてソーシャル・キャピタルを数量化するが行われ、ソーシャル・キャピタルが経済成長率に対して正の関係を持っていることを発見しました。(ただし質問による結果は精度が低いという指摘があり、現在は経済実験学の手法がよく用いられています。)

 

また、社会もソーシャル・キャピタルの存在を支持するかのように動いていきます。

貧しい人たちが個人で融資を受けられないため、持ち回りで融資を受け、返済したら次の人が借りられるという与信制度を確立したグラミン銀行。

アメリカの新卒文系学生が選ぶ最も就職したい企業、Teach For America認定NPO法人フローレンス特定NPO法人クロスフィールズアショカなどの社会起業やソーシャル・イノベーションによる社会へのインパクトの大きさ。

また、災害後の立ち直りの研究についても社会関係資本が果たした役割の側面から次のような事例が紹介されている。

関東大震災阪神淡路大震災インド洋津波、ハリケーンカトリーナについてソーシャル・キャピタルの水準が復興の速度と程度を決定づけている(Aldrich 2012)

東日本大震災の被災市区町村データを解析し、震災前の犯罪率と津波による死亡率が有意に正の相関関係を持っており(Aldrich & Sawada)、社会関係資本津波による人的被害を軽減する役割を果たしていたと考えられる。

・オープンイノベーション文脈における社会関係資本の役割

・中国の人脈資本主義やスウェーデンイノベーション

etc…

というように、いろんなデータでソーシャル・キャピタルが果たしてきた役割と同時に、社会関係資本の役割が多面的であることがわかると思います。

 

この社会関係資本を強力に後押ししているのがオンラインコミュニティの存在です。

SNSをたくさんの人が使うようになったことは社会関係資本の蓄積・活用においてそれ以前と比べて飛躍的になりました。

 

もう無視できないビジネス上の社会関係資本

アカデミックが先か、ビジネスが先か…というのはよくある話ですが、社会関係資本も例に漏れずビジネスシーンでも盛り上がっています。

SaaSのサービスが増えてきており、ユーザーをコミュニティ化して、社会関係資本とすることが重要となってきています。社会関係資本は他社が絶対にマネできないのです。ユーザーをコミュニティ化することの良さは冒頭の馬田さんのスライドがめちゃくちゃ詳しいのでここではスライド内から“こんなところで役に立つよ”というところを。

マーケティング
・プロダクト
・プラットフォーム
・カスタマーサポート
・カスタマーサクセス
・HR
イノベーション

これらのワードが関わるお仕事に就いてらっしゃる方はぜひ馬田さんの資料を読んでみてください(再掲)。

https://www.slideshare.net/takaumada/startup-community-management-1

ちなみにコミュニティ作りの副産物として生まれるのが社会関係資本であって、
コミュニティ≠社会関係資本であることにご注意ください。 

 

 

とまぁそんなこんなで社会関係資本ソーシャル・キャピタルって面白いよ!って記事でした。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます!

青木